悪趣味だとは思うんです。3
買物・その後
「どぉ? どぉ!?」
すでに幾度も繰り出されたその問いを、オレはげんなりと、カイトさんは満面の笑みで受け止める。
買物帰りの女4人、しかも購入物は洋服ときたら、その日のうちにファッションショーが開催される。これは当然であり必然であり、通過儀礼なのだそうだ。今まさに新しいベージュのスーツの着心地をチェックしている我らのマスターいわく。
4人分ともなれば、その量たるや物凄い。両手一杯の紙袋を下げたメイコさんにリンは笑顔で重さなんてちっとも感じていないようだったが、正直オレとカイトさんは引いた。確かにその時ばかりは、全く理解できないこの人と内心通じ合えたとは思う。だがそれも一瞬だけの連帯感だった。
「ねえ、どうかなお兄ちゃん? 似合うー?」
「リンも! どうですかカイ兄! 自分的にはなかなかイイ線いってると思うんですけど!」
薄く透け感のあるワンピースの裾を翻しくるくる回りつつ、ミクさんは楽しそうにカイトさんの周囲を飛び回る。その隣ではマリンルックに身を包んだリンが、同じようにステップを踏んでカイトさんの腕を引っ張っていた。
「………」
そして返事をねだられているカイトさんは、何故か俯いたまま黙っている。心なしか、ふるふる震えているようにも見える。
「お兄ちゃん?」
「カイ兄?」
「………か、可愛い………っ!!」
ああもうミクもリンも可愛いよっ!可愛すぎるよよく似合ってる!!がばっ。
どうやら耐え切れなかったらしい。勢いよく2人に抱きつくと、そこは兄大好きな妹2人。
「えへ、やったー」
「うっしゃ、兄さんのポイントはここですね!?」
あははうふふと笑いあう光景はぱっと見には麗しい。が。
おいこら待てそこの青いの。それが妹の新しい服を褒める兄の態度か。何か脂下がってないか。両手に花とか思ってないか。
「ちょっとカイト。こっちには感想ないの?」
ビビッドカラーのポロワンピに身を包んだメイコさんが、冗談まじりに笑った。こっち、と言いながらマスターの方も指差す。今度は仕事着ではないようで、マスターは幾分かラフな服装で現れていた。念のため付け加えておくと、彼女らは自室で着替えてから居間に出てきている。
「え? 2人ともよく似合ってるよ? それにマスターとメイコは、着たい服よりか、自分をより魅力的に見せるための服を判ってるから、そりゃ絶対似合うよー」
「うわぁ、生意気な」
「判ってるようなこと言うなぁ。ま、事実だけど」
それでも褒められて悪い気はしないのは当然のこと、オレはやけににこにこしているカイトさんを眺めながらも、同じく女性陣を褒め称え始めたのだった。(ちなみにこれは男性陣の義務だ。最初の頃、適当にスルーした時の報復を思い出すだに恐ろしい)
「…ったぁ。何すんのさ、レン」
皆が一時、それぞれの部屋に戻ると、オレは思わず彼の後頭部をはたいてしまった。
「あんた何処のエロ親父だよって顔して、妹見るな」
「は? こんな端整なエロ親父がいるか普通」
自分で言うな。
「ミクは可愛い。リンも可愛い。メイコは美人顔だけど中身入れると可愛いよねぇ。マスターもかなりの美人さん。みんな眼福すぎて俺は実に幸せです」
「うあすっげぇ笑顔……女好きめ」
「何で可愛い子にくっつかれて不機嫌にならなきゃいけないわけ。お前こそ大丈夫?」
逆に心配そうな顔をされた。むかつく。どっちだか判らん容姿のくせに。
「は。男性型としての性格プログラムが正しく機能してる証じゃないか。可愛い子を可愛いと言って何が悪い」
「…リンとオレは顔つきほぼ同一だけど」
「うん。お前も顔だけ見たら可愛いよねぇ」
「……『カイ兄さぁ〜ん』」
「うっわ! 凄いなレン! 鳥肌を初体験しそうだった! ……ごめん、笑っていい?」
「てめこら」
あぁ気持ち悪すぎておかしい、と何とも失礼なことをほざきながら彼は笑う。何て奴だ。ちょっとリンの真似しただけでこの仕打ちとかどうなんだ。しかも本気で爆笑している。少しくらいは努力賞として、アタマ撫でるくらいしてもいいんじゃねえ? すると何処まで本気にしたか、彼はちょいちょいと手招きした。
「仕方ない。考慮してやろうじゃないか。ちょっとこっちおいで。レンくん」
「……なにさ」
膝の上に乗せられ、彼の両腕がぎゅうっとオレの腹の前で組まれる。あ。なんかすごくイイ。単純とか言うな。恋する男は基本、女よりロマンを追い求めるもんなんだよ。
「一応さぁ、レンにも癒されてたりするんだよ?」
「そんな虚しいだけのフォローは要りません」
「いやいやマジでマジで。俺ってばレンくんのこと大好きだから」
「……カイ、」
「何でかなぁ? このチョンマゲって触ってると面白くて何か癒されるんだよねぇ、あはははははは。あ、あれか。アニマルセラピーとか∞プチプチ的な!」
「〜〜せめて夢くらい見せやがれぇぇぇぇっ!!」
思いきり膝上で暴れても、けらけら笑っている相手に簡単に押さえ込まれてしまうオレ涙目。ちくしょう。純粋に力だけなら勝てる(はずな)のに。
誰かオレに癒しを下さい……。