神威×KAITO

お酒の席は無礼講











※ メイコ視点によるがくぽ×カイトですが、
がくカイより年長組がいちゃついています。
兄さんが相変わらず妙なテンションです。ですががくカイです。
以上のことに注意頂き、大丈夫そうなら下へとお進み下さい。※







 その日わたしは、不機嫌極まりないままに帰宅した。


「何よ、だったらこっちに話持ってくんなっつの」


 先方からわたしに話を持ちかけてきたというのに、スタッフがうっかり口を滑らせたところによると本当はミクやリンが望ましかったらしい。けれどあの子たちも多忙の身。たまたまその辺りでスケジュールに余裕のあったわたしに話が舞い込んできた、というわけだ。


「わたしはあの子らの穴埋めかっつーの」


 いくら旧型エンジンだからって、そうそう遅れを取る気はない。けれどそう思ってくれる人はやはり数少ないのだ。思いきり歌い上げて向こうを呆気に取らせてきたけれど、それですべて溜飲を下げたか、といえば話は別だ。
 ああ、むかつくわ。


「ただいまっ」


 心もち小声で玄関を抜ける。すでに時間は日付も変わろうかという頃。年少組は夢の中だろう。そして年長組と言えば、以前まではわたしともう一人しかいなかったのだが。


「お帰り。メイコ殿。このような時間まで、大変だな」
「あら、ただいま」


 最近増えた新たな年長組である、がくぽが出迎えてくれた。稼動年数から言えば最年少なのだが、見た目はわたしたちと並ぶ。デフォルトの服は実に暑苦しそうだが、夏場の夜は薄手の浴衣を寝間着代わりにしているようだ。体格がいいと和服が似合う。


「あぁ、湯が張ってある。温まってくるといい」
「ありがと」
「それと、もし付き合う気があるなら、その後に部屋に寄らないか。メイコ殿が諸手を挙げて喜ぶと奴が言っていたが」


 ぴく、と即座の眉の反応に、含み笑いが返ってくる。そりゃ、わたしがこういう反応しなきゃ、嘘でしょう。それを読みぬいている男も、彼の近くにいることだし。


「……名前を仰い」
「久保田の萬寿」
「絶対行くから開けずに待ってろって伝えて頂戴。どっち?」
「奴の方だ」
「了解」


 びっと親指を立てて顔を見合わせ、笑った。気分があっという間に上昇しているのが判る。我ながら単純なものだ。子どもたち抜きの、楽しい時間が待っている。


 早々に入浴を終え、カイトの部屋の扉をノックする。予想通りどーぞーと呑気ないらえがあったので、さっさと中へ入った。中へ入った途端、ちょっとぉとわたしが唇を尖らせたのは仕方あるまい。すでに何本もの酒瓶がごろごろと転がっているのだ。完璧に空になっている幾本かは、わたしの好きなものだと即座にチェックをかける。


「あんたたちねぇ、何時から飲んでんのよ」
「え〜? さぁ、ミクたちが寝てからだとは思うけどぉ」
「少なくとも彼らが部屋に引き込んでからだな」


 2、3時間でこれか。わたしは溜息をついた。酒豪だ酒好きだと言われるわたしだが、実は強さで言えばカイトの方が上だ。わたしは美味しいし気持ちよくなるしで飲むことが好きだが、彼の場合は幾ら飲んでも全く影響がない。美味しいとは思うけど、それならアイス食べてても一緒だし。というのがカイトの言い分だ。経済的にもその方が優しいので、こちらとしても文句はない。
 そんなカイトだが、飲むとなったら上等なものを結構な量干してしまう。今まではわたしと酒盛りするのが常だったが、がくぽがやって来てからは彼とわいわいやることも多いようだ。


「で。ちゃんと取ってあるんでしょうね」
「大丈夫大丈夫。萬寿だよー、純米大吟醸だよー」


 ほら、と出されたものは確かにあの久保田様。しかも一升瓶。ああ、魅惑のラベルが目に染みる。


「今日貰っちゃって。太っ腹だよねぇ」
「……お前は貢がれ慣れすぎだ」
「うわぁ、何、がく、ヤキモチ? ヤキモチぃ??」


 あはははは、とやたらカイトのテンションが高い。酔っている訳でもないだろうに。
 苦虫を噛み潰したようながくぽの表情に、更にカイトの笑いが深くなる。弟妹たちがいる前ならともかく、今のカイトにそんなささやかな意思表示など無駄以外の何者でもない。
 実は、という程のことでもないが。
 目の前の男二人が、単に同僚だとか同業者だとか同居人だとかいう枠組みをとっくに飛び越えている関係だと、知ったのは結構早い段階だった。正確には、ある日の朝あっさりカイトが口にした。あ、俺とがくねぇ、何かくっついちゃったよあっはっは。以上。報告終わり。
 くっつく? ユニットを組む意味ではなく? 一瞬混乱した頭は、顔色を赤から青へとくるくる変えたがくぽがカイトを引きずって向こうへと拉致したことで落ち着いた。
 ああ。なるほど。そういうこと。
 以来、わたしの前では二人は何も隠さなくなった。そもそも、わたしに告げた日の前の晩、初めて一線を越えたらしい。ろまんちしずむがどうとか、秘め事がどうとか、涙目のがくぽに諭すように言ってやったことがある。諦めなさい、あれはああいう生き物だから。あれに惚れたアンタが悪いのよ。


「それにしても、お酒多すぎよ。わたしの座る場所がないじゃないの」
「こうなったら在庫一掃しちゃおうかなーって思って。まだまだあるよ」
「ふむ。しばし待て。その辺を開けて…」


 片付けようとするがくぽを制して、わたしはカイトの前へ移動した。んん? と見上げてくるカイトに小さく椅子と呟くと、笑顔で彼はあぐらを組み両腕を広げた。


「ここでいいわ」


 カイトのあぐらを椅子代わりに、彼の胸を背もたれにする。バランスを取るために、片腕がわたしの腹に回された。ちら、とがくぽを見ると、特に変わったところはない。残念。どうやら鍛え過ぎてしまったようだ。
 最初の頃、わたしとカイトの仲を邪推していた彼は、わたしたちの細かな仕草にいちいち可愛らしい反応をしてくれた。見え隠れする信頼感が悔しいそうだ。その反応が実に楽しくて、カイトとわたしはお互い示しあったかのように、散々彼をからかい倒した。真面目かつリアクションの大きい子は遊ばれるものだ。ひとえに愛だ。
 遊びすぎてしまって、かなりの耐性がついてしまった今はちょっと寂しい。恋人が女を膝に乗せている姿を目の当たりにしても、嫉妬すらしてくれない。わたしとカイトの間に、性別を思わせる空気が流れたことは一度もないから、仕方ないといえば仕方ない。
 ずっと、カイトとわたしは二人一組だった。辛い時に支えあい、励ましあい、手を引きあった。ミクやリンレンとはやはり違う。彼らもわたしの大切な弟妹ではあるけれど、カイトはそういうものではなかった。たった一人の同胞。
 そんな彼が、わたし以外の誰かと恋仲になった。
 寂しくはなかった。そうは全く思わなかったわたし自身に、一番驚いた。カイトを拠り所にしていた自覚があったのに、取られた、とは欠片も思わなかったのだ。
 その理由は単純明快だ。二人とも、わたしをとても大切にしてくれる。わたしとカイトの世界を壊さないようにしながら、新たな世界を構築してくれた。
 本日の座席も決まり、わたしは機嫌良く手にした空のコップをずい、と勢いよく突き出した。
 とりあえず、酒盛りを始めましょう。


「よし、酒つげー!」
「はいはい、女王様」


 転がる瓶が更に増えていく。酒飲みが集まるとどうしようもない。一番弱いのはがくぽなのだが、飲む量を調整して何とか粘っているようだ。毎回カイトに潰されているのは沽券に関わるらしい。酒量では圧倒的敗北なのは目に見えているのだが、微妙な男心なのだろうか。
 カイトはますますご機嫌なようだ。今回並べられた酒はいずれもわたしかカイトの好物揃いで、明日は全員オフの日だ。ここのところ多忙を極めていたこともあり、気分が上昇するのは仕方ないだろう。


「ちょっと、カイト。重い」


 こて、と肩にカイトの頭が乗せられる。そのまま犬がじゃれつくようにぐりぐりされて、くすぐったさに身を捩った。


「あー、やっぱり女の子はいい…」
「何言ってんのアンタ」
「だってさぁ」


 ごくり、とコップに残った酒を開けてから、カイトは思いきりがくぽを指差した。


「こんな図体でかいのだと華がないんだよ! 見てるだけでむさくるしい…っ」
「失礼な」
「アンタだって男でしょーが」
「俺はいいんだよ。スレンダーだし男くさくないし何て言うの、中性的美形?」
「うっわ」
「自分で言うな、自分で」


 わざわざポーズを決めたカイトに、双方からツッコミが入る。確かにカイトが男っぽいかと言えば首を捻るが、それをコンプレックスに思うならともかくアピールしてしまう辺りがこの男だ。いつだったか、女装して鏡の前で「…もう一人KAITOいてもいいよな」と真剣に呟いていたことを思い出す。たぶん、データを弄ってKAIKOにする気だったのだろう。あの自分大好き男がそれを諦めたのは奇跡に近い。


「あー、女の子はいいなぁ…癒される…」


 とうとう酒を持つのも放棄したカイトに、両腕で後ろから抱きしめられる。感じるのはときめきではなく安堵だ。
 カイトもそうなのだろう……たぶん。かなり親父くさいことを言っている気もするが、たぶん。


「はいはい、好きなだけ堪能なさい。アンタの好きな女の子よ」
「わーい、メイコ大好きだー」
「あたしも好きよー、カイト」


 見事に無反応ながくぽに内心で拍手を送る。まぁ、ここまで邪気のないたわむれ方だと、児戯にしか見えないわね、うん。わたしたちが無駄にべったりする習性があるのをミクやリンレンは知らないけど、この男の前で躊躇ったことはない。最初のからかいネタだったこともある。


***



 しばらく続いた酒盛りは、突然のがくぽの叫びで一時停止した。わなわなと、震える指が指し示すのは件の久保田。


「…い、何時の間に干した…っ!!」


 既に空っぽだと判るそれを、どうやら彼は一口も飲んでいないらしい。明らかにショックを受けているがくぽに、カイトはあっさり言い放つ。


「え、さっきの間? お前がちみちみ飲んでるから」
「極上品だぞ、少しは味わえ…っ!」
「味わったから今なくなったんだろー。あー美味しかったぁ」


 くぅ、と心底悔しそうに歯噛みしている。どうやら飲みたかったらしい。だが、この面子で中身が確保したいなら早々に注いでおくべきだ。全く、青いのとは違って要領が悪いったらない。
 くい、と沈んでいるがくぽの服の袖をカイトが引く。にやん、とたちの悪い笑みが浮かぶのが見えた。


「何なら、味見する? まだ残ってるけど、味」


 見せ付けるように覗かせた、赤い舌先にしばしがくぽが硬直する。それから、また下手な対応をしては遊ばれると判っているのだろう、全く顔色を変えないまま、カイトの唇に自分のそれを重ね合わせた。幾度か角度を変えての口付けに、くちゅ、と舌の入り込む音がこちらまで聞こえてくる。
 二人の顔が離れたところから、細い唾液の糸が伝った。


「んは。どうよ?」
「…なるほど。美味いな」
「だろお?」


 全く、開き直るなんて面白くない。えい、と足を投げ出して二人の間に割り込んだ。


「ちょっと、わたしを置いていちゃつかないでよ、そこの二人」
「いやいや男同士でいちゃつくなんて寒々しい。味見だから味見」
「何言ってんのよ。寝室じゃあ男同士でべたべたしてるくせに」


 はん、と言い放ったそれに、カイトが同じような笑顔でさらりと返してくる。


「ま、そりゃーやるこたやってますけどね?」
「…な、なななななななっ!!?」


 あらまぁ、いい反応だこと。


「そういえば聞いてみたかったんだけどぉ、がく、アンタ、カイトをちゃんと満足させてやってるんでしょうねぇ?」
「んなっ!? ちょ、メイコ殿までっ!?」
「おぉっと、メイコが大人の時間モードだーっ!」
「んじゃ、当事者のカイト君に聞いちゃおっかな。実際どうなのよ、がくは?」


 手で即席マイクをつくり、突撃インタビュー。
 カイトは両手でぶりっ子ポーズをしながら、きゃあんvと身をくねらせた。


「えー、そんなこと聞かれてもぉー、カイト恥ずかしいー困っちゃうー」
「答えんでいい!!」


 顔を真っ赤にさせながら絶叫するがくぽを見て。
 よしまだまだからかえる余地があったと、わたしとカイトは顔を見合わせて目だけで笑った。かわいそうに。わたしたちに格好のネタを与えてしまうなんて。


 やっぱり、もう少しだけ、遊ばせて貰おうかしら。
 悔しくも寂しくもないけれど、カイトとの二人の時間を多少なりとも奪われた代償は、高いのよ?





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